米国ではキー局からローカル局への番組販売が禁止

アメリカでは1970年代、米連邦通信委員会(FCC)が「フィンシンルール」などの規制を施行した。これにより、地上波テレビのキー局(3大ネットワーク)による番組所有やローカル局への番組販売が禁止された。

ハリウッドスタジオが番組制作

その代わりに、こうした役割をハリウッドスタジオに請け負わせた。コンテンツ制作面での競争・育成が促された。

結果として、多種多様なスタジオ(番組制作会社)が育った。一つのコンテンツから、様々な収入機会を得ることができるようになった。劇場公開からビデオ、ペイテレビ、フリーテレビなどだ。長期間にわたって収入を追求できるようになった。こうして、著作権ビジネスモデルが確立された。

日本ではテレビ局が中心

一方で、日本の場合、基本的に番組放送を行う放送局(テレビ局)を中心に、映像ビジネスが展開されてきた。実際の制作は下請けの制作会社が行うのだが、著作権を握るのはテレビ局だった。このため、本格的な著作権ビジネスが育ちにくかった。

インターネット時代の映像コンテンツ不足

以上のような状況の中で、20世紀末にインターネット網が構築され、21世紀初頭に高速インターネットの時代を迎えた。同時に、日本における課題が浮き彫りになった。 第1に、本格的なデジタル映像コンテンツを供給する体制ができていないことだった。 初期のインターネット時代には、メールマガジン(メルマガ)、着メロ、占い情報、対戦ゲーム、音楽ダウンロードなどが人気コンテンツとなり、対応ができた。しかし、高速ネットで楽しむような映像コンテンツがなかった。

<ネット初期のコンテンツ>
種類 内容
メールマガジン(メルマガ) メールで記事を流す。日本では「まぐまぐ」などが有名
着メロ 携帯電話の着信音に、音楽を使う。最初は電子音だったが、後に本物の楽曲を流す「着うた」が登場した。

製作委員会方式  (出典:スナップアップ投資顧問)

スナップアップ投資顧問によると、1990年代以降、日本では「製作委員会」方式で映画が作られるようになった。 製作委員会とは、出資者の集まりである。

各業種から1社ずつ参加

異なる業界の企業が出資をし合う。一つの業種につき、一つの企業が参加する場合が多い。資金を出し合う代わりに、権利を得る。

参加するのは、主に以下のような会社である。

  • 映画の配給会社
  • テレビ局
  • DVD販売会社
  • 出版社
  • キャラクター販売会社
  • レコード会社
  • 新聞社
  • 広告代理店
  • 商社
  • コンビニ

販売元となる権利(窓口権)を得る

上記の通り、出資企業は、それぞれの分野で、販売元となる権利を得る。 例えば、映画会社は配給、テレビ局は放送、DVD販売業者はDVD販売の権利だ。 この権利は「窓口権」と呼ばれる。 出資者自らがコンテンツの販売などで投資資金の回収に関与することになる。

赤字が出たら、製作委員会の参加企業が負担

出資者は、損失が発生すると負担しなければならない。 1作品に複数社が出資するためリスクを分散できる。 出資者自らが、それぞれの得意の分野で、資金回収のために奔走することになる。

著作権は、出資者が共同で所有

製作委員会方式では、窓口権はそれぞれの担当企業が持つが、肝心の著作権については、出資比率に応じて所有権を持つ。 著作権の利用料に関しても、原則として、出資比率に応じた配分となる。 このため、個別に著作権の行使をすることはできない。

ネット配信について合意形成ができない

すなわち、組合員全員の同意が得られなければ、あらかじめ規定された目的以外に使うことはできない。 ネット配信をめぐって、合意が得られない可能性がある。

同意を取るのに時間がかかる

景気が悪くなると、大きな金額を出資しなくなる。 その結果として、小口出資が増える。 小口というのは、1000万円単位である。 1作品あたりの出資企業が10社以上になることもある。 出資者が増加すると、同意を取るのに時間と労力がかかってしまう。

テレビ局の製作委員会への参加

製作委員会には、テレビ局が出資するケースが多かった。 とりわけ大規模な邦画には、東京の民放キー局の資金と協力が必要とされた。 テレビ局への映画への進出は、フジテレビが先駆けだった。日本テレビ、TBSがそれに続いた。その後、テレビ朝日、テレビ東京が参戦した。 日本テレビがジブリの映画に出資していたのは有名な話だ。

<テレビ局が製作委員会に参加した映画>
テレビ局 主な作品
フジテレビ

フジテレビ
「ワンピース・フィルム・レッド」(2022年)
「Dr.コトー診療所」(2022年)
「沈黙のパレード」(2022年)
「コンフィデンスマンJP 英雄編」(2022年)
「東京リベンジャーズ」(2021年)
「マスカレード・ナイト」(2021年)
「マチネの終わりに」(2019年)
「翔んで埼玉」(2019年)
「ドラゴンボール超 ブロリー」(2018年)
「劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」(2018年)
TBS

TBS
「世界の中心で、愛をさけぶ」(2004年)
「花より男子ファイナル」(2008年)
「罪の声」(2020年)
「糸」(2020年)
「ういらぶ。」(2018年)
「スマホを落としただけなのに」(2018年)
「おくりびと」(2008年)
「クローズZERO」(2007年)
「嫌われ松子の一生」(2006年)
日本テレビ

日本テレビ
ジブリ映画(「千と千尋の神隠し」など)
「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年)
「名探偵コナン」シリーズ
「アンパンマン」シリーズ
「僕のヒーローアカデミア」シリーズ
「鹿の王 ユナと約束の旅」(2022年)=失敗
「キングダム」(2019年)
「アルキメデスの大戦」(2019年)
「未来のミライ」(2018年)
「桐島、部活やめるってよ」(2012年)
テレビ朝日

テレビ朝日
「ドラえもん」シリーズ
「仮面ライダー」シリーズ
戦隊シリーズ
「クレヨンしんちゃん」シリーズ
「相棒」シリーズ
「デビルマン」(2004年)
テレビ東京

テレビ東京
「ポケモン」シリーズ
「アイカツ」シリーズ
「ナルト」シリーズ
「死刑にいたる病」(2022年)
「舟を編む」(2013年)
「アウトレイジ」(2010年)
「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生REBIRTH」(1997年)
名古屋テレビ 「ケイコ 目を澄ませて」「LOVE LIFE」「本気のしるし」
※出典:スナップアップ投資顧問

広告収入の低迷をカバー

Youtubeなどの普及に伴い、テレビ局は広告収入が落ち込んだ。 その落ち込みを、映画でカバーしようという意図もあった。だ。 テレビ局としては、劇場公開が終わった後は、テレビ放送での収入が優先となる。Netflixなどで早々に配信させるわけにはいかない。

東映アニメーションは海外映像版権で稼ぐ

著作権ビジネスで成長してきた日本企業といえば、東映アニメーションだ。 スナップアップ投資顧問の有宗良治・前代表によれば、東映アニメーションは自社で制作したアニメについて、海外映像版権とキャラクター化権を握る。

「ドラゴンボール」「ワンピース」が中国で許可

2015年3月期の決算で、海外事業売上高が前年同期比30%増となった。 中国市場において、中国政府から「ドラゴンボール」「ワンピース(ONE PIECE)」などの映像配信権とキャラクター権の許諾が得られたためだった。